北海道英語教育学会会長:片桐 徳昭
(北海道教育大学)
会長を拝命し、本年度で二年目を迎えることとなりました。旧年度におきましては、福岡研究大会をはじめ、北海道研究大会を含む各種行事の運営に際し、会員の皆様方より多大なるご支援とご協力を賜りましたこと、心より御礼申し上げます。また、HELES Journal の刊行形式を電子版に統一いたしましたところ、投稿数・掲載数ともに増加傾向が見られ、本学会の活動をより多くの方々にご認識いただける機会が広がったことを、大変喜ばしく感じております。本年度は、HELES が道内三学会(JASELE、JACET、HELES)の幹事学会を務める運びとなっております。例年の学会活動に加えて、本役割の遂行にあたりましても、変わらぬご支援・ご協力を賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。
さて、現行の学習指導要領に基づいて導入された評価の枠組みである「三観点」(①知識・技能、②思考・判断・表現、③主体的に学習に取り組む態度)につきましては、英語教育の実践においても広く議論されるようになっております。私自身、授業観察の場面、ならびに自身の英語学習歴および指導経験を省みる中で、各観点の重みづけや実際の授業運営への影響について、改めて思索を深めているところです。私の英語学習歴(1987 年3 月まで)をふり返りますと、高等学校段階までは①(知識・技能)に、大学以降は②(思考・判断・表現)に重点が置かれていたように感じられます。また③については、学習期間を通じて常にその基盤に存在していたと実感しております。教師となってからの前半(1987-2010 頃) は、①を中心に②を促すような指導が多かった記憶があります。国内の現場でも2003年に提唱された「英語が使える日本人」構想(いわゆるアクションプラン)が英語教育改革の俎上に載せられましたが、しばらくは①の重要性が現場に根強く残っていたのではないかと推察されます。すなわち、「知識・技能が十分に身につけば、その先に英語使用が成立する」といった一種の期待が背景にあったものと思われます。受験対策など、明確な結果を追求する場合においては、①を主軸とする順行型授業設計(forward design)が一定の成果を収める場面もあるかもしれません。
しかし、「中学校学習指導要領(平成29 年告示)解説 外国語編」には「コミュニケーション」という語句が180 回程度使用されており、②および③を重視した授業構築が強く求められていることが読み取れます。このような方向性をふまえると、②や③に焦点を当てた授業設計を推進し、その過程において①の習得を支援するという観点が、今後ますます重要になると考えられます。とりわけ、Can-do リストなどに示されるディスクリプターの達成を目指すうえでは、後方設計(backward design)の理念に基づいたカリキュラム設計が有効であると考えられます。この設計思想においては、「テストのための学習」ではなく、「学んだことをどのように活用できるか」に焦点が移り、「なぜこの活動を行うのか」が明確化されます。その結果として、学習者主体で目的志向型の授業が構築され、②および③の育成がより効果的に図られることが期待されます。
もっとも、これまでの自らの授業経験(38 年間)を省みますと、①の枠組みに強く依拠していた場面も多く、実際にはこの転換を容易に実現・普及できていたとは言い難いのが正直なところです。今年度こそは理論と実践を往還しつつ、迷いなく教育活動や研究を遂行できるよう今更ながら心を新たにして取り組んでまいりたいと存じます。